解説『「学力」の経済学』 -教育は分析できる-

お金

こんにちは。えっくすはっかーです。

今回は、教育経済学者の中室牧子さんの著書、『「学力」の経済学』を解説します。

この本にも書かれていますが、日本の教育はなかなかしっかりと分析されておらず、「どのような教育が効果的なのか」ということも、成功例をもとに、統計的な分析がなされることなく語られていることが多いと思います。

私も、「自分に効果のあった学習方法」というものを語ることはできますが、「統計的に見て効果の高い学習方法」というものはきちんと理解できていませんでした。

『「学力」の経済学』は、経済学や心理学のように、実験から結果を導き、結論付けられることを中心に書かれています。
この本を読んで理解することは、統計的に効果の高い教育を実践する上で非常に大きな力になると思います。

それでは、内容に入っていきましょう。

超まとめ

教育は、将来の収入金額にも大きく影響する重要なもの。学力テストだけではなく、非認知能力を含めた幅広い教育に、できるだけ子どもが小さいうちから取り組んでいこう。

「教育経済学」とは何か

まず、「教育経済学」とは何なのか、何を目的としているのか、ということを整理しておきましょう。

中室さんいわく、「教育経済学とは、教育を経済学の理論や手法を用いて分析すること」ということ。

今までこのブログでもご紹介してきた『経済は感情で動く』『未来を変える教室』でも、実験や分析の結果をもとに書かれていました。
統計的な処理は多くの分野に広まってきていて、当たり前のように使われています。

しかし、日本ではまだ、教育政策に科学的な根拠が必要だという考え方はほとんど浸透していないのです。

どこかの誰かの成功体験や主観に基づく逸話ではなく、科学的根拠に基づく教育を広めたい、これが著者である中室さんの思いです。

「教育」の価値

教育の内容に入っていく前に、「教育そのものの価値」について考えてみます。

子どものころは、物事の価値について深く考えることは少なかったかもしれません。
しかし、大人になると「これにはそんなにお金をかける価値があるのか」「そこに時間を費やす価値があるのか」と、価値について考え、価値の高いことにお金や時間を使いたいと思うことが増えるかもしれません。

そのような観点で考えたとき、教育の価値はどうなのでしょうか。

結論、「教育投資への収益率は、株や債券などの金融資産への投資などと比べても高い」としています。
労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2013」によると、高卒後すぐに働き始めた場合と、大学を卒業してから働き始めた場合とでは生涯で稼げるお金に1億円の差があります。
教育を受けて大学を卒業した場合、卒業しなかった場合と比べて、統計的には1億円プラスになるのです。

宝くじで1億円が当たる確率は1,000万分の1。6%の複利で1億円を手にするためには、1,000万円を40年間運用する必要があります。
1億円を手に入れるのは結構大変ですよね。

高校卒業と大学卒業とを比較したときに、1億円の差があることはわかりました。
でも、実際にはどのタイミングで教育に投資するのが最も効率的なのでしょうか。

これを考えるときに、「教育の収益率」という考え方を使います。

「教育の収益率」とは「1年追加的に教育を受けたことによって、子どもの将来の収入がどれくらい高くなるか」を表した指標です。

ノーベル経済学賞を受賞したヘックマン教授らの著書で用いられた、人的資本投資の収益率を年齢別に表したデータを見ると、人的資本への投資はとにかく子どもが小さいうちに行うべきだ、ということが読み取れます。

子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)が最も収益率が高い、ということです。

効果の高い教育、低い教育

ここからは具体的にどのようなインセンティブやご褒美を用意するのがよいのかを見ていきましょう。

教育について意見が割れるものの1つに、ご褒美はよいものか、悪いものか、というものがあります。

そこについても、『「学力」の経済学』では明確な結論を書いてくれています。

結論、「ご褒美は悪くない。使い方によってはより高い教育効果を引き出すことができる」ということができそうです。

本の中で紹介されているのは、ハーバード大学のフライヤー教授の実験で、そこではご褒美の対象となった子どもたちと、対象にならなかった子どもたちの内的インセンティブには統計的に有意な差が観察されませんでした。
つまり、ご褒美が子どもの「一生懸命勉強するのが楽しい」という気持ちを失わせてはいなかったのです。

それでは、具体的にどのような「ご褒美」が効果的なのでしょうか。

こちらもフライヤー教授の実験により、「テストでよい点を取る」などのアウトプットに対するご褒美より、「本を読む」などのインプットにご褒美を与えられた子どもたちの学力が顕著に上昇したことが報告されています。

しかし、アウトプットは数値化しやすく明確なため、「テストで〇〇点を取ったらご褒美をあげるね」というコミュニケーションを取りがちかもしれません。
どうしてもアウトプットにご褒美を与えたい場合には、どうすれば成績を上げられるのかという方法を教え、導いてくれる人が必要です。
そうしなければ、どのように努力をすればご褒美に到達できるのか、誤った方向に進む場合があります。
アウトプットを重視する場合は、まず「勉強のしかた」を勉強することが重要ということです。

ちなみに、ご褒美の内容ですが、小学生までは「トロフィー」などのお金ではないもの、中高生以上には「お金」が効果的とのこと。

また、遠い目標に対してのご褒美は効果が薄れますので、「インプット」に対して「近い将来」にご褒美を与えるのが効果的ということになります。

「非認知能力」とは何か

学校での勉強やテストの成績とは少し離れる内容ですが、「非認知能力」というものについても、この本の中では触れられています。

「非認知能力」とは、やり抜く力、忍耐強さ、意志力、自制心、社会性や立ち直る力等、学力テストでは計測することができない能力です。

これらが学歴・年収・雇用に影響することは想像に難くないですが、このような非認知能力を伸ばすことも、教育の大きな役割の1つです。

非認知能力は幅が広すぎるため、何をすればいいのかわからない、という事態に陥ってしまうかもしれませんが、神戸大学の西村教授らの研究によると、「嘘をついてはいけない」「他人に親切にする」「ルールを守る」「勉強をする」という4つの基本的なモラルをしつけの一環として親から教わった人は、それらを全く教わらなかった人と比較すると年収が86万円高いということが明らかになっています。

非認知能力を鍛えるため、部活動や課外活動も見直されているそうです。

学力テストの成績ばかりにこだわりすぎず、幅広い定義で教育を捉えるのがよいかもしれません。

「教員の質」は「教育の成果」に影響するか

最後に、教育者側について見ていきましょう。

教員の能力をどのように測るべきなのか。教員の質によって成果はどの程度変わるのか。こういったところにフォーカスしていきます。

まず、教員の能力を測る指標について。

ハーバード大学のチェティ教授らの研究によって、「付加価値」という指標が、教員の質の因果関係を捉えるのに、極めてバイアスの少ない方法であることが明らかになっています。

「付加価値」とは、「教員の担当した子どもの成績の変化でみる」指標
担当前の成績を基準にし、どれくらい上がったのか、あるいは下がったのかを数値化したものです。

ではその「付加価値」、どのようにすれば高めることができるのでしょうか。
ここで伝えられている衝撃的な内容の1つに「教員研修が教員の質に与える因果効果はない、という結論が優勢」である、というもの。
つまり、教員研修は効果がないようだ、ということです。

このあたりは、教育だけではなく、その他のビジネスシーンでも応用が効きそうなので興味深く読んだのですが、どうやら研修は効果がなく、ボーナスは効果があり、何よりまず成績を数値化して評価することが効果的である、ということがわかります。

教育に関していうと、能力の高い教員が教えた場合、能力が低い教員が教えた場合の3倍の内容を習得できる、とう研究結果もありますので、教育方法やご褒美の設計等と合わせて、教員のレベルアップも図っていきたいですね。

さいごに

今回は少し長くなってしまいましたが、実に有益な情報の多い本でした。
実際、教育に関してしっかりと分析されたデータ等は多くないようです。

これからは、教育の分野もオンライン化、IT化していくと思いますので、多くのデータが集まりやすく、分析がしやすい状況も整ってくると思います。
そうなると教育の進化も加速するのではないか、と期待しています。

私自身も何かしら教育に関連することもやっていきたいので、新しい動き等をキャッチしたら、このブログでも発信していこうと思います。

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